渡邉医院

第120回近畿肛門疾患懇談会を終えて。

 今日は、祝日明けの土曜日。休みの方が多かったのか、患者さんが沢山受診されました。患者さんの中には、手術を決心して受診された方もいらっしゃいました。
 患者さん皆さん、今日渡邉医院を受診した目的は達成されたでしょうか?そうであって欲しいと思います。

 今日は、年3回開催される近畿肛門疾患懇談会が開催されました。今回で第120回目になりました。新型コロナウイルス感染拡大の中、対面での開催はできず、今回もzoomによる開催となりました。なかなかzoomでの懇談会では、意見が出しにくいのか、討論がしにくいのですが、今回は演題は6題の演者の先生とWEB参加の先生方の活発な討論もあり、有意義な、そしていつもの近畿肛門疾患懇談会のような雰囲気が少し出てよかったと思います。
 今回の懇談会の主題は「低位筋間単純痔瘻の治療」でした。痔瘻の中でも最も頻度の多い痔瘻です。 
 発表全部で6題。演題名と演者の先生のコメントをまず紹介します。

(発表要旨) 当院では低位筋間痔瘻に対し、後方病変では lay open 法を前方ではシートン法を中心に根治手術を行なってきた。当院における手術手技ならびに肛門機能評価を含めた術後成績について発表する。

(発表要旨)低位筋間痔瘻に対し当院では括約筋外を走行する瘻孔は可能な限り切除し、内肛門括約筋外縁まで瘻孔を追跡して1次孔を正確に捉え、Setonの範囲も最小限にして瘻孔切除部の皮膚も可能な限り温存するよう工夫している。

(発表要旨) 低位筋間単純痔瘻に対して2016 4月から2020 3月までの間に手術を行った153 例を対象として、各術式の治療成績について発表する。術式はシートン法が最も多く、症例に応じて痔瘻結紮法などを行った。

(発表要旨) 当院における前・側方ⅡL 型痔瘻に対する括約筋温存手術について報告する。

(発表要旨) 2018 1 月から 2020 12 月までに低位筋間痔瘻に対して括約筋温存術式での痔瘻根治術を施行した症例は 428 例で、単純痔瘻が 274 例、複雑痔瘻が154 例であった。手術手技を提示するとともに、これらの症例の成績を報告する

(発表要旨) 2013 年までは、肛門後方の低位筋間痔瘻に対しては、開放術を中心に手術をし、前方・側方の低 位筋間痔瘻に対しては、括約筋温存術を適応させてきた。しかし、括約筋温存術の成績が問題ないために、2014年からは、後方の低位筋間痔瘻に対しても括約筋温存術を施行している。現在再発は数%であり、開放術と比較して有意差は認めていないので、報告する。

の以上6題でした。ばっちり2時間使っての懇談会でした。

 さて、今回の懇談会を終えて、その内容と私の考えをお話ししたいと思います。

 1)の演題の中で、やはり低位筋間痔瘻の発生が多いことを報告されました。低筋間痔瘻の発生頻度は痔瘻全体の70%を占めるとの報告でした。やはり痔瘻は後方の6時の方向に発生しやすいようです。肛門の全周のなかで、後方6時の方向の血流が悪いことも発生しやすい原因ではないかと思います。
 痔瘻根治術で大切なのは原発口と原発巣の部位の診断です。渡邉医院ではゾンデと言って針金のような器械があって、それを二次口から挿入すると原発口まで到達して原発口が診断できることがあります。ただ、無理やり挿入したりすると、本当は原発口でない部分を原発口にしてしまうことがあります。ゾンデをゆっくり挿入して何の抵抗もなく原発口に到達した場合は、はっきりと診断できます。ただ、スッと入っていかない時の方が多いです。そうした場合は、二次口から瘻管を剥離していくと、自然と原発口まで到達します。このように手術の際に瘻管を剥離しながら瘻管の走行を確認して、原発口を診断してしっかり取り除くようにしています。
 ここでの発表では、二次口から色素や過酸化水素水オキシドールを入れると原発口から出てくる。これを目印に原発口を特定して手術を進めるとのことでした。ただ、色素や水素が入らない場合もあり、この場合は、渡邉医院と同様には二次口から、瘻管を摘出していきながら原発口を特定していくとのことでした。

 痔瘻の手術において、肛門の後方6時の痔瘻は手術後も肛門機能低下や変形が起きにくいのでlay open(瘻管開放術)で開放創にする。前方や側方はではシートン法を行うことが多いとの報告でした。シートン法ではシートン法の輪ゴムだけではなく、アルカリの糸を一緒に入れているとのことでした。シートンは平均約3か月で輪ゴムがとれるとのことでした。

 また、術後、最大肛門静止圧がいずれの手術でもやや低下するとの報告もありまし。最大肛門静止圧が低下するということは、内肛門括約筋の緊張が緩むということです。ただ、この最大肛門静止圧が低下することは悪いことなのか?という疑問もあります。
 以前、渡邉医院でも内痔核や痔瘻、裂肛の手術をする前に最大肛門静止圧を測定していました。そうするとやはり、痔瘻の患者さんは内痔核の患者さんより最大肛門静止圧が高い傾向にあります。
 こういったことから、最大肛門静止圧、内肛門括約筋の緊張が強い人ほど痔瘻になりやすいのではないかという推察をしました。若い男性に多いのもこのことが影響しているのではないかと思います。
 ですから、痔瘻の手術をして、最大肛門静止圧が下がるのは、正常に戻ったということではないのかなあとも思います。痔瘻の手術をして便が出しやすくなったという患者さんもいます。このことは、今後検討していく必要があると思います。

 2)、3)の演題ではシートン法について発表と討論がありました。
 発表では、痔瘻の瘻管は内肛門括約筋付近まで剥離して、原発口までの内肛門括約筋内にのみシートンで輪ゴムをかける。シートンをかける範囲をできるだけ短くするとの報告でした。3)では、痔瘻に対しての治療にはシートン法と結紮療法があるとの発表。シートン法は輪ゴムをゆっくり締めていくのに対して、結紮療法は輪ゴムなどをしっかり強く締めて早期に瘻管を開放創にしていく、カティングシートンと同じような治療法。1週間程度で輪ゴムを脱落せます。やはり強く締めるので痛みがあります。言ってみれば1週間程度でlay open(瘻管開放術)をするようなものという意見も出ました。このシートン法と結紮療法は似ていますが、やはりそれぞれ違います。

 シートン法は「鋭的」に括約筋を切除するのではなく、「鈍的」に切除していく。ゴムの組織を溶かしていく作用を利用してゆっくりゆっくり、鈍的に切除していく。強く締めると組織を溶かすことを利用するのではなく、鋭的に切除していくことになります。やはり目的原理が違います。それぞれのメリット、デメリットを検討していく必要があります。
 また、薬線に関してはアルカリの濃度やどの程度組織を溶かしていくのかを検討して、経験的にはなく、学問的、科学的に検証し行っていくことが大切だと思います。

4)、5)、6)は痔瘻に対しての括約筋温存術に関しての演題でした。
 二次口から原発口まで瘻管をくりぬき、原発口を切除した部分を粘膜で縫合閉鎖するという手術です。しかし、その縫合部分がまた再開通してしまうことがあり、それが再発に繋がっていく。やはり括約筋温存術の場合、原発口を切除した部分をどう縫合閉鎖していくかが今後さらに検討が必要だと思います。

 少し長くなりましたが、今日の第120回近畿肛門疾患懇談会の報告でした。