今日は、第76回日本大腸肛門病学会の2日目です。
渡邉医院も休診にさせてもらって、朝から学会にWEBで参加しています。
午前中は、シンポジウム「裂肛・肛門狭窄の診断と治療」に参加していました。
このシンポジウムを通じて私が思うところなどを少しお話ししたいと思います。
「狭窄の定義」
まず最初に感じたことは、「肛門狭窄」の定義です。この「狭窄」の定義がとても難しいのではないかと思います。
辞書で「狭窄」を調べると「すぼまって、狭いこと」となっています。ただ、肛門狭窄の「狭窄」はどの程度の狭さなのか?が問題になってきます。個人個人によって、本来のその人の正常の肛門径は違います。その人にとっての「狭窄」とはどの程度の狭さなのか?これが重要だと思います。
では、その人にとっての「狭窄」はどのようにして診断するのかが問題になってきます。やはり、その判断するのに重要となってくるのがその人が感じる症状だと思います。排便時の痛みや、排便後の痛みの持続時間。また排便の際の便の出しやすさなどが重要になってくると思います。例えば、患者さんを診察する際に、肛門指診では私としては肛門が狭いように感じても、患者さん本人は、「具合よく便が出ています。」、「スッキリ痛みなく出ています。」と自覚症状がない方もいます。この場合は私の指で診察して狭いと感じても、その人にとっては狭くないということになります。また診察の時に、「そんなに狭くないなあ。」と私が感じても、患者さんが「排便時に痛みがあります。その痛みがしばらく持続します。」とか、「便がスッキリでないです。」、「出すとき頑張らなければ出ません」など、狭窄の症状が有れば、その人にとっては「肛門狭窄」がある可能性があります。ですから単にどのくらいの肛門径があるのかではなく、患者さんにとって、今の肛門径が狭いのか、正常なのかを判断することが大事だと思います。したがって、患者さんの症状をもとに診察して、狭窄の有無を診断していかなければなりません。
「診察の際の課題」
次に、診察に際しての課題となるのが、痛みがあるときに、どのように裂肛の程度を診断するかです。
どうしても痛みが強いときに肛門の診察をすることが難しいことがあります。指診することが痛みが強くてできなかったり、痛みのために肛門鏡での観察が難しいこともあります。ただ、初診時の際に、痛みがあっても、軟膏をつけてゆっくりゆっくり指を挿入していくと、ある程度の痛みがあっても指診できることが多いです。また、最初の指診の際痛くても、その後浣腸した後の2回目の指診の際は1回目の時と違い、痛みが比較的楽になって診察でき、肛門鏡も挿入して観察することができるようになることが多く、これまで痛みによって、まったく診察ができなかったという患者さんはいらっしゃいません。
ただ、初診時の緊張の強さが、その時だけの強さなのか、本当に緊張が強くなってしまっているのかは、その時だけの1回の診察では難しいと思います。ですから、肛門ポリープや皮垂があり、瘢痕が強く、明らかに裂肛に対して手術が必要と判断した時以外は、まずは便秘があれば便秘の治療など排便の調整をして、軟膏を使って肛門の緊張をとるように少し指を肛門内に入れて緊張をとるなど、保存的治療から始めていきます。学会での議論の中でも、裂肛の患者さんの多くの方は、排便の調整や軟膏などの外用薬による保存的な治療で軽快して、手術に移行することが少ない病気ということでした。
次回は手術のタイミングや手術に関して続きをお話ししたいと思います。