渡邉医院

当院(有床診療所)の過去12年間の診療実績と今後の展望(第65回日本大腸肛門病学会)

 今回は、平成10年から平成21年までの12年間の渡邉医院の診療実績と今後の展望という内容の学会発表を紹介します。
 渡邉医院は19床のベットを持つ入院施設のある有床診療所です。
 今、全国的に年々有床診療所は減少してきています。その原因の一つには、有床診療所の入院基本料が低いため、なかなか経営が成り立っていかないこと。また有床診療所を継承してくれる人が見つからないなどの継承問題。などなど、有床診療所を取り巻く現状はとても厳しいものがあります。でも有床診療所のいいところは、地域に密着して受診しやすい環境があること。また入院と外来の診療を同じ医師が担当すること。外来から入院まで同じ医師が診察、治療にあたるので、患者さんにとってはとても安心感のあることだと思います。また、大きな病院と違って、いろんなことにすぐに対応できる、フットワークがいいことも有床診療所のいいところだと思います。
 渡邉医院は肛門科に特化した有床診療所です。渡邉医院が肛門科に特化できるのも、周囲に多くの医療機関があって、肛門疾患に集中して診療ができるといった、医療環境があるからだと思っています。肛門科に特化した診療を続けていくためにも、周囲の医療機関としっかりと連携していく必要があると思います。
 有床診療所は地域の医療を守るため、また専門の医療を提供する役割を今も担っています。これから先も、有床診療所の持っている意義をしっかり発信して、有床診療所を守っていきたいと思います。
 さて、学会での発表内容を紹介します。

発表内容

 当院は京都市の西陣にある肛門疾患のみに特化した19床の有床診療所です。
医師1名、看護職員7名、事務員2名、当直5名の計15名で診療しています。
 入院は良性の肛門疾患の手術後の患者さんのみで、重度の合併症等のある患者さんは術後連携病院に入院または連携病院で手術を施行しています。
 当院は京都市の上京区に位置しています。御所の少し西側の西陣にあり、周りには多くの診療所や病院があり、こういった環境も肛門疾患だけに特化して診療できる要因だと思います。
 今回は平成10年から平成21年までの12年間の診療実績に関して、
年間の総患者数の推移、診療報酬の総点数及び外来・入院別の点数、各健康保険別の総点数、外来・入院の点数の推移、平均入院日数の推移、内痔核の入院治療の推移に関して検討しました。
 診療報酬の総点数及び外来・入院別総点数の推移ですが、総点数は平成12年をピークに減少し、15年以降はほぼ横這い、入院は平成12年をピークに減少、平成17年に一端増加するも以後は減少、外来は平成17年より減少するも平成20年から増加傾向です。
 年間の患者数の推移は、新患、再診患者とも平成16年から増加傾向です。
 健康保険別入院総点数の推移は国民健康保険が社会保険より多い傾向があります。
 外来総点数も入院と同様に国民健康保険が社会保険より多い傾向にあります。
 平均入院日数の推移は平成14年より減少傾向で、内痔核の入院日数もALTA療法の出現と係り無く減少傾向にあります。これは短期入院の社会的な傾向だと思います。
 年間手術件数は平成17年から外来手術が減少し、入院手術が増加し、平成17年から手術件数はほぼ横這いです。平成17年からは最低限1泊2日の入院治療をするようになったのが原因です。
 内痔核の手術件数の推移は平成17年から内痔核の入院手術は増加し、以後微増。平成17年からLEが減少し、ALTA療法が増加、平成21年からはALTA療法がLEを上回るようになりました。内痔核の入院治療が増加している要因に、ALTA療法の出現で手術に踏み切れなかった患者の需要がふえたのだと思います。
 まず外来に関して検討します。平成17年からの外来点数の減少は外来手術の減少の影響が大きく、平成20年からの増加は肛門鏡検査が算定できるようになったことと、患者数が増加していることからだと思います。
 入院に関しては、平成17年に増加したのはこの年から最低1泊2かの入院による治療を行うようになり、入院手術が増えたこと。平成18年からの減少はALTA療法の導入と、ALTA療法の件数が増加したことが影響したと思います。
 さらに、平成20年の診療報酬の改定で、有床診療所の入院基本料に加算できる。加算100点が算定できず、入院基本料が大幅に減少したことが大きく影響しています。また内痔核の入院手術と比較してみると、やはり平成17年からLEの減少とALTA療法の増加が影響していると考えます。ただ、内痔核の入院治療が増加している要因に、ALTA療法によってこれまで手術に踏み切れなかった患者さんの需要が増えてきていることがあり、ALTA療法の点数も増加したことから、今後のポイントとなると考えます。
 さらに平均入院期間の短縮も入院点数の減少の原因と思われます。この傾向は今後も変わらないと思います。
 まとめです。
 京都市の西陣という立地環境が肛門疾患単科での開業を可能にしている。
 小規模有床診療所の経営を維持するには新患数の増加と手術件数の増加が必要である。
 肛門科単科での外来の一人当たりの診療報酬の単価が低いので入院治療も収入に大きな影響を与える。また技術料の変化で大きく診療報酬の点数がかわってくる。
 ALTA療法の出現だけではなく、時代の流れが短期入院の方向になっており、平均入院日数が短くなる傾向は今後も変わらない。
 ALTA療法の出現で、手術に踏み切れなかった患者の需要を増やしていると考える。この点も今後のポイントとなってくると考えます。

抄録を紹介します。

抄録

当院における過去12年間の診療実績を検討した。
【当院の概要】
 当院は京都市の西陣にある肛門疾患のみに特化した有床診療所(19床)である。現在、常勤医師1名、看護職員6名、事務員2名、当直(看護要員)5名の計14名で構成。入院は肛門疾患の術後の患者のみで、重度の合併症等のある患者は、術後に連携病院に入院又は連携病院で手術を施行している。手術は全例局所麻酔で行っている。
【検討項目】
 H10年からH21年までの12年間について以下の5項目を検討。1)年間総患者数及び年間総新患数の推移。2)診療報酬の総点数及び外来入院別点数。3)国民健康保険及び社会保険の年間の総点数、入院点数、外来点数の推移。4)平均入院日数の推移。5ALTA療法の出現で、治療法に大きな変化のあった内痔核の入院治療の推移。
【結果】
1)年間総患者数は2430人から3252人へ、年間総新患数も2165人から2816人へと徐々に増加。年間総患者数―年間総新患数も265名から436名と増加傾向にある。
2)診療報酬総点数は12年間ほぼ横ばい状態である。入院点数と外来点数は、H17年から19年の3年間のみ入院点数が多い以外は外来点数が上回った。H12年からH16年まで徐々に入院点数が減少傾向にあり、この間外来点数の増加を認めた。
3)国民健康保険と社会保険との比較では、いずれの年も国民健康保険が上回っている。
4)平均入院日数は全疾患ではH12年の8.5日をピークに減少しH21年は3.4日と60%減となった。
5)内痔核の入院治療はH1516年と減少し、H17年以降平均307件と横ばいである。H18年からALTA療法の導入でLEは減少しH21年で116例と62%減となった。ALTA療法導入後これに合わせて平均入院日数も減少しH13年の9.9日からH21年は2.8日へと72%減となった。
【今後の展望】
 基本的であるが小規模有床診療所の経営を維持するには、新患数を増加させ手術件数を増やす工夫がさらに重要になってくる。またALTA療法の出現で平均入院日数が短くなり、この傾向は今後かわらないと思われる。有床診療所の経営には入院治療での収入も大きな影響を与えるため、外来だけでなく入院治療を今後も継続し充実させていく必要がある。