渡邉医院

第14回内痔核治療法研究会総会を終えて

  今日は去年、新型コロナウイルス感染拡大によって中止された第14回内痔核治療法研究会がwebで開催されました。
 今回のテーマは、ALTA療法(ジオンという痔核硬化剤を用いて四段階注射法という方法で痔核硬化療法を行い内痔核を治す治療方法)に関して、患者さんにどのように説明しているか、インフォームドコンセントをしているかでした。
 パネルディスカッション1では「ALTA療法選択のインフォームドコンセント」。パネルディスカッション2では「ALTA療法施行時の有害事象のインフォームドコンセント」についての討論でした。
 私はパネルディスカッション2で発表し、パネリストの先生方とディスカッションしました。
 まずは、私の発表内容を紹介します。

「ALTA療法有害事象に対してのインフォームドコンセントの内容とそのタイミング」

 はじめに、ALTA療法が出現するまでは、第Ⅲ度以上の内痔核に対してはLEなど、外科的切除が基本でした。どうしても傷ができ、そのため術後や排便時の痛み、また晩期出血など出血が患者さんを苦しめます。そのため、私たちは痛みや出血を軽減するために工夫をしてきました。

 ALTA療法の出現で、治療は一変しました。適応をしっかり見極め、四段階注射法を遵守することで、比較的に簡便に治療効果を得ることができます。そしてALTA療法の最大のメリットは、痛みなく治療できるところです。したがって、当院では、ALTA療法の最大のメリットを生かすために、ALTA単独療法を基本にしています。

 さて、ALTA療法は低侵襲の治療法と言われています。本当にそうでしょうか?
 ALTAを局注した部分では激しい反応が起きています。しかし、ALTA療法によって、痛みなく脱出や出血は早期に取り除かれ、患者のQOLは改善されます。このことが、医師や患者がALTA療法を安易に考えてしまう危険性があるのではないかと思います。

 患者さんには「手術で治していたものを注射で治す。注射した部分にはものすごい反応が起きているのですよ。」と伝えています。

 当院の副作用の発生頻度ですが、血圧低下は341.2%です。ALTA療法施行時、直後が24例で71%を占めています。トイレでの血圧低下が515%。2時間以降の血圧低下は発生していません。

 徐脈は26例、0.95%。ALTA療法施行時、直後が19例、83%を占めています。トイレでの徐脈が414.5%、2時間以降の徐脈は発生していません。

 発熱に関しては、ALTA療法当日から2日目までの発熱は29例、28%、6日目から10日目までは56例、54%と二峰性で、6日目から10日目までの発熱が多い傾向にあります。
 このような副反応の発生頻度をもとに患者さんにインフォームドコンセントをしています。

 そのタイミングは、初診時、術前の診察時、ALTA療法施行後3時間後、退院時、約1週間後の受診時、そして1か月後の診察時の6回の時点で話をしています。それぞれ話す内容は違い、今の状況や今後注意することを話しています。

 初診時には内痔核に関しての説明。そして、現在の患者の内痔核の程度や、第Ⅲ度以上の場合は、LEALTA療法などの治療の必要性をお話しします。そしていずれの治療方法についても説明します。
 LEでは、術後の疼痛、早期出血や晩期出血の発生頻度や、その時の対処方法について説明します。
ALTA
療法の適応があれば、当院でのALTA療法の流れをはなし、メリットとしては、傷ができないので痛みがないこと、1%の晩期出血がないこと。また、出血や脱出などの症状は早期に軽快することをはなします。
 デメリットとしては、ALTA療法は万能な治療方法ではなく、適応を見間違えると治らないばかりか、悪化してしまうことなどを話します。そして、当院での副作用の発生頻度をお話しします。
 そして 最後に、手術で治すのを注射で治す。手術のように術後の痛み出血はないが、注射した局所では激しい反応が起きていることを理解していただきます。
 当院でのALTA療法の流れをお話しします。
 当院では、ALTA療法は基本12日の入院での治療となります。退院後は約1週間後と1か月後の受診としています。発熱に関しては発生する時期を話し、予定の受診日以外にも、痛みや出血など、気になる症状が出た場合はすぐに受診してもらうように伝えます。
 ここまでのことを初診時に説明します。

 ALTA療法施行する前の診察時には、局所麻酔をすること。手術と違い、傷ができないので、傷の痛みはないこと。ただ、肛門に傷がなくても、麻酔が切れる1時間後までは、肛門が収縮することで痛みが出ることがあり、この際は、消炎鎮痛剤を内服してもらうように説明しています。
 血圧低下や徐脈に対応するため点滴をすること。血圧低下や徐脈はALTA療法施行後2時間までに起きているので、2時間経って症状なければ終了することなど説明しています。

 3時間後では、ALTA施行後の状態を話しています。また、局所麻酔は完全に切れていること。痛みがあれば消炎鎮痛剤を内服してもらうこと。排便はできれば明日にするのが望ましいが、我慢はしなくていいこと。そして食事はしっかり摂ってもらうことなどをお話ししています。

 退院時には、初診時に話した内容をもう一度お話しします。
 排便があれば、排便時の出血と脱出の有無を聞き、患者さんには便意があれば、これまで通りに排便をするよう指示します。
 また、入浴等、日常の生活には制限がなく、食事もこれまで通り摂っていただくように話します。
 副反応に関しては、ALTA療法施行後2週間までに約4%に発熱があること。そして発熱の出現時期、特に710日目の発熱が多いこと。今はコロナ感染症のこともあり、咳、咽頭痛などの症状がなく急な発熱はALTA療法の副反応であること。発熱した場合、解熱剤の内服をしてもらうようにしています。また、痛みや出血の症状が悪化したり、その他、気になる症状があれば、受診していただくように指導しています。

 約1週間後には、退院後の排便時の出血、脱出、そして熱発の有無をききます。
 受診日まで熱発がなくても、2週間までに熱発する可能性があることを話します。
 排便の状態はどうか?排便があるが、細い便が出る、出るのは出るが出しにくい。排便時に脱出しないが、するような気がする。などの症状を訴える患者もいます。出血や脱出の症状がなくても治ったわけではないこと、手術とALTA療法の違いなどをお話しします。

  1か月後は、排便時の出血や脱出の有無、熱発があったか。排便時の状態がどうかをききます。
 1か月後の受診の際、特に問題がなければ一応終診とします。ただ、その後も、何か気になる症状があれば、受診してもらうように指示しています。
 そして最後に患者さんに話すことは、「必ず肛門の病気には自覚症状がでること。なんの症状もなく気が付いたら今回のようになることはないこと。そして悪くなるには排便の状態など、必ず原因があることを話し、気になる症状があれば、すぐに受診するよう指導します。

 最後に、患者さんに対して、有害事象をどの時点で、どの範囲まで説明することは難しい問題です。
 1回にすべてのことを患者さんに話をしても、その内容をすべて確実に1回で理解してもらうことはなかなか難しいと思います。
 必要な時に、必要な説明をして理解していただくことが大切ではないでしょうか。
また、患者が不安に思うであろうことを、先手先手に説明していくこと、このことも大切であると考えます。