渡邉医院

肛門科で最も怖い病気、肛門周囲膿瘍からの壊疽性筋膜炎!

 12月も後少し、残すところ1週間になりました。渡邉医院も1229日が年内最後の診療となります。

 大分昔のことになりますが、年末で今でも覚えている患者さんがいます。その患者さんは重症の肛門周囲膿瘍の患者さんでした。
 年末に受診されて、診察したところ、肛門の後方、6時の方向に原因があり、膿瘍が左右に広がってくるタイプの肛門周囲膿瘍でした。肛門周囲膿瘍ですので、直ぐに局所麻酔をして切開して排膿をしました。次の日に受診してもらうと、膿瘍はさらに左右の前方に広がっていました。それに対して再度切開創を広げ対処しました。十分な切開で排膿できたため、その後は炎症は治まってきましたが、年末年始診療所に受診していただき、治療をする必要がありました。記憶に残る肛門周囲膿瘍でした。
 また最近も同様の肛門周囲膿瘍を発症した患者さんが受診されました。初診の際は、肛門の後方から左前方に広がる肛門周囲膿瘍でした。かなり腫れていたのですぐに切開排膿を行いました。2時間程度病室で休んでもらい痛みが軽減し、出血もなかったので、帰宅してもらいました。次の日受診してもらうと、今度は後方から右側前方にまで強い発赤と腫脹を認めました。先ほどお話した患者さんと同じように急激に膿瘍が広がっていました。
 こういった場合は小さな切開創では十分に排膿できないのと、このように急激に膿瘍が広がる場合は嫌気性菌の混合感染の場合が多いので、かなり大きく、前方から後ろまで10㎝以上の切開を行いました。切開創を見ると、組織が黒く一部壊死に陥ていました。また、原因である後方には示指が根元まで入るぐらいの膿瘍腔を形成していました。
 この2回目の切開によって次の日には肛門から臀部にかけての赤く腫れた炎症もスッと治まってきていました。私は心の中で「本当に良かった!」と思いました。患者さんもよく頑張って下さったと思います。
 十分な切開を行い十分に排膿が出来、周囲の炎症が治まってくるともう安心です。

 ではなぜこのようになったかですが、いずれの患者さんも肝臓の機能が悪いこと、そして糖尿病の基礎疾患を持っていることが急速な炎症から膿瘍が広がっていったと思います。

 やはり肛門周囲膿瘍を診た時は、十分に排膿できるように大きく切開することが必要ですし、場合によっては硬く炎症を起こしている部分まで大きく切開するということが必要だと考えます。

 今回なぜこのような話をしたかというと、肛門の病気で命にかかわる可能性がある怖い、そして重篤な病気が肛門周囲膿瘍から起きることがあるからです。それが「壊疽性筋膜炎」です。

 壊疽性筋膜炎は、肛門周囲膿瘍や痔瘻、外傷、尿路感染がきっかけとなって、陰部や肛門周囲に急速に広範囲に炎症が進行して発症し、急激な悪化をたどる感染症です。
 陰部や肛門周囲に生じた壊疽性筋膜炎は「フルニエ症候群」とも呼ばれています。発症する患者さんの半数は糖尿病の人に発症します。年齢的には50歳から70歳代に多く見られ、男性と女性の比率は25対1とやはり圧倒的に男性に多く発症します。このことは、肛門周囲膿瘍や痔瘻が男性に多くみられることと一致します。

 壊疽性筋膜炎の症状は、全身の症状と局所の症状とがあります。

全身の症状

 全身の症状では、やはり38℃以上の熱発。そしてそのための吐き気。そして関節痛や筋肉痛などの症状が出ます。また全身の倦怠感もあります。言ってみればインフルエンザに感染した時のような症状です。ですから肛門の痛い症状と熱や倦怠感は別だと思ってしまう患者さんもいます。
 また炎症が急速に進んでいくので、進行すると血圧が下がったりショック状態に陥ることもあります。また炎症が広がることで敗血症や多臓器不全を起こし、急速に命にかかわる状態になってしまうこともあります。

局所の症状

 局所の症状は、やはり肛門周囲膿瘍と同様に、肛門周囲の腫れ、赤く腫れる、またその部分を触ると痛みが強い。また、壊疽性筋膜炎なので、皮膚が黒く壊死になっている。また、ガスを発生することがあるので、腫れているん部分などを触るとプチプチという捻髪音が聞こえ触った感じもプチプチした患者や、雪を握ったような触覚があります。このようにガスを発生する状態になるとかなり重症化していることを示します。
 こういった症状が肛門周囲だけでなく、腹部にまで広がっていくこともあります。
 このように炎症が肛門周囲だけでなく広がっていく原因は、細菌感染が皮下組織の筋膜まで達します。筋膜は全身を覆っているので、筋膜を通って全身に感染が広がっていってしまうためです。

原因は細菌感染

 感染の主な原因菌はA群β溶連菌で、ほかに黄色ブドウ球菌、大腸菌などがあります。
 これら好気性菌に嫌気性菌が混合感染すると壊疽性筋膜炎に繋がり重症化していきます。
 したがって肛門周囲膿瘍は多くの原因菌は好気性菌の大腸菌ですが、そこに嫌気性菌が混合感染することがあり、このことから肛門周囲膿瘍から壊疽性筋膜炎につながる可能性が高くなります。

 ただ、たいていの場合は肛門周囲膿瘍で治まりますが、最初にお話したように、肝機能障害があったり糖尿病であったり、感染に弱い基礎疾患を持っている患者さんの場合はリスクが高くなり注意が必要です。

治療

 治療は、先ほどお話したように十分な、大きな切開を行い、膿瘍をしっかり出すことが大事です。そして嫌気性菌の関与の可能性もあるため、大きく切開して傷に十分な空気がいくようにする必要があります。また壊疽性筋膜炎の場合は壊死にいたった組織も徹底的に切除していく必要があります。

全身の治療

 また、敗血症になったり、細菌性のショック状態に陥ることがあるので、全身に対しての治療も必要になってくることがあります。また肝機能が悪かったり、糖尿病があるのであればその基礎となる疾患の治療を十分に行うことも大切です。

 今回は怖い話をしましたが、肛門周囲膿瘍が壊疽性筋膜炎に重篤化することもあるため、やはり肛門に痛みがある場合は、我慢せずにできるだけ早く肛門科を受診する必要があります。また肝機能障害や糖尿病がある場合はその基礎疾患の治療も必要になります。

 今、新型コロナウイルスの感染が拡大して、収束が見えない中、熱発した患者さんはまずはかかりつけ医に電話連絡して相談するということになっています。でも、肛門が腫れ、肛門の痛みを伴いまた、熱発している場合は迷わず肛門科に連絡して相談してくださいね。