渡邉医院

内痔核の第Ⅱ度と第Ⅲ度の違いはどこに?

  10月になって、半袖から長袖へと衣替えをしました。本当にグッと涼しくなりました。先日の中秋の名月。綺麗な月を見ることもできました。季節は確実に進んでいます。いよいよ秋ですね。

 新型コロナウイルスの感染は収束を見せていません。でもどう付き合っていったらいいのかを段々皆さんわかってきたような気もします。まだまだ正しい情報が発信されていません。でも必要以上に恐れることは無くなってきたのかなあと思います。適切な感染予防をすることでこれから流行期が来るインフルエンザと一緒に新型コロナウイルス感染防止に対して基本的な感染予防策はとっていきましょう。

 さて今日は内痔核の第Ⅱ度と第Ⅲ度の違いについてお話したいと思います。

 内痔核の分類にGoligher分類があります。第Ⅰ度から第Ⅳ度までの四段階に分類されています。
 第Ⅰ度は排便時に出血する。でも内痔核は脱出してこない。
 第Ⅱ度は排便時に出血し、脱出してくる。でも自然に内痔核は戻る。
 第Ⅲ度は排便時に内痔核が脱出してきて、脱出したままになるので、指で押し込む。
 第Ⅳ度は内痔核は脱出したままで、押し込もうと思っても入らない。
 それぞれの程度はこのような症状で分類されています。そして内痔核が手術になるかどうかの境目が第Ⅱ度であるか、第Ⅲ度であるかです。
 第Ⅲ度以上になるとやはり、痔核根治術やジオンによる四段階注射法での痔核硬化療法(ALTA療法)が必要になります。では第Ⅱ度と第Ⅲ度ではどこが違うのかをお話します。症状では、第Ⅱ度までは排便時に内痔核が脱出しても自然に戻ります。でも第Ⅲ度以上になると、脱出したままになるため指で押し込まなければ戻りません。では組織学的にはどうなっているかです。ここに手術になるかならないかの理由があります。

 内痔核の成因に肛門上皮滑脱説(The sliding anal lining theory)というものがあります。 これは、連合縦走筋から内肛門括約筋を貫く線維と内肛門括約筋からおこる線維によって形成される肛門管粘膜下の平滑筋組織があります。この滑筋組織が肛門管内の痔静脈叢を支えて、肛門上皮の滑脱(出てくること)を防ぐ役割を果たしているという説です。
 もう少し詳しく言うと、肛門の粘膜下組織は一定の厚みを持った組織が連続的に形成されているのではなく、非連続的なクッション (肛門クッション)であり,3 つの主要な肛門クッ ションは左側方,右前方,右後方に位置するとしています。この肥厚した肛門クッション部のそれぞれの粘膜下層は血管と弾性結合組織,平滑筋線維からなります。この平滑筋線維が粘膜および粘膜下組織をその下にある内括約筋へ固定し,粘膜下の血管を支持する重要な役割を果たしています。この肛門クッションの肛門の外側への滑り出しが痔核の成因であるとしています。
 すなわち排便時の怒責が肛門クッションのうっ血を引きおこして肛門クッションを滑脱させ、滑脱が繰り返されることによって粘膜下の平滑筋線維は繰り返しひきのばされ線維組織の断裂を生じさらに滑脱 しやすくなるとする考えです。

 例えば、針金を曲げたり伸ばしたりを繰り返していくと、針金がポキット折れてしまうのと似ています。排便時に強く怒責することを繰り返すことで、痔静脈叢を支えている平滑筋線維が断裂し、痔静脈叢を固定できなくなることで内痔核が脱出したままになってしまうということで。この平滑筋線維の断裂の有無が内痔核の治療に影響してきます。

 第Ⅱ度の内痔核はまだこの平滑筋線維が断裂していません。まだしっかり痔静脈叢を支えているので、内痔核を消退させることで内痔核は脱出してこなくなり治っていきます。ですから手術まですることはなく、パオスクレーなどの痔核硬化剤での痔核硬化療法で内痔核を治していくことが出来ます。
 でも平滑筋線維が断裂してしまうと、内痔核だけに痔核硬化療法をしても、やはり内痔核部分の粘膜が排便時にどうしても脱出してきます。ですから第Ⅲ度以上になると痔核根治術が必要になります。
 ただ、第Ⅲ度以上になっても内痔核の性状によっては、ALTA療法で治すことが出来ます。これは、ジオンという痔核硬化剤は、内痔核を消退させるだけでなく、粘膜や粘膜下層を括約筋に固定する作用があります。ですからALTA療法は確実に四段階注射法で痔核硬化療法を行うことで、内痔核の消退だけでなく、粘膜や粘膜下層を括約筋に固定することで脱出してこなくなるということです。

 このように第Ⅱ度と第Ⅲ度では組織学的に違いがあります。そのことが内痔核の治療方法に影響を与えます。