痔瘻の手術の中にシートン法という方法があります。今回はこのシートン法について少しお話したいと思います。
痔瘻の手術には大きく分けて、瘻管を摘出する方法、瘻管摘出術(fistulectomy)と瘻管を切開して開放創にする方法、瘻管開放術(fistulotomy)があります。シートン法は時間をかけて徐々に徐々に瘻管を開放していく瘻管開放術の一つです。
シートン法は二次口から瘻管を通て原発口まで輪ゴムを通して、この輪ゴムをゆっくりゆっくり絞めていき、瘻管を開放創とする方法です。
シートン法の特徴はゆっくりゆっくり輪ゴムを絞めていくことで徐々に瘻管が開放創となってきます。それと共に傷が修復していくという点です。
通常の瘻管開放術では、一気に瘻管を開放して開放創となります。その開放された傷が修復され治っていくのを診ていきます。
これに対してシートン法は瘻管を輪ゴムで絞めることで、絞めている方の組織が段々浅くなって、最終的には開放創となって輪ゴムが取れます。この時に開放創となる反対側の傷は修復されてきているので、輪ゴムが取れて開放創となった時はある程度傷が治っているという具合です。
ただ、痔瘻の手術で大事な点は、原発口、原発巣、そして瘻管を適切に処理することです。原発口や原発巣が十分に処理されないと再発したり、治らない原因になります。シートン法もこの原則は同じです。ですから輪ゴムが適切に瘻管を通り、原発巣、原発口を通っていないと治っていきません。この輪ゴムを適切に瘻管、原発巣、そして原発口に通すところにシートン法の技術が問われます。
痔瘻根治術の場合は手術の際に瘻管を確認してそして原発巣、原発口を確認しながら手術をすすめることが出来ます。でもシートン法の場合は瘻管や原発巣、原発口に輪ゴムが通っているかを確認することはできません。
ではどうするかです。痔瘻の瘻管の走行や原発口の位置を確認するのにゾンデといって細い針金のようなものを使います。
二次口からゾンデを挿入して容易にスッと原発口に到達する際は、瘻管から原発口まで輪ゴムをかけることは容易です。でもなかなかスッとゾンデが通らないこともあります。この時に無理やりゾンデも進めると、適切な原発口にゾンデが到達しないことがあります。無理やりゾンデを挿入することで、本当の原発口ではない部分に通してしまうことがあります。ここが難しいところです。
やはり手術に当たってはどこに原発巣、原発口があって、どのように瘻管が走行しているのかを的確に診断できることが必要です。特にシートン法を行う時はこのことが最も重要となるところです。診断能力が問われるところです。
さてシートン法は瘻管摘出法や瘻管開放術と違って時間がかかります。
シートン法で一番大事なところが早く治そうと思って輪ゴムを強く締めないことです。輪ゴムを強く絞めることで痛みが出て、締めすぎると痛みが強くなっていきます。またシートン法は言ってみれば傷を治しながら瘻管を開放創にしていくところに一番の利点があります。強く絞めてしまうと痛みが強くなるばかりでなく、治しながら開放創にしていくといったシートン法のいい点がなくなります。
一番最初に輪ゴムをかけるときは本当にゆるゆるの状態にします。そしてある程度日数がたってから少しづつ絞めていくようにしています。時間はかかりますがゆっくりゆっくり輪ゴムを絞めて、数か月にわたって治していくことが大事です。
ですから、シートン法を行う場合にはこのことを患者さんにしっかり話をして、シートン法での治療は長期戦になることを伝えなければなりません。そして緩んだ輪ゴムは少しづつ絞めていくのですが、その際も強く締めすぎず、患者さんが痛みを感じないように絞めることが大事です。ある先生がこんなことを言っていました。「シートン法は肛門にピアスをするみたいなもの。ゆっくり時間をかけて治すものです。」と。