今日は痔瘻根治術の難しさと手術をしたあと、なかなかスッキリ治らない原因について2回に分けてお話したいと思います。
痔瘻はまずは肛門周囲膿瘍からことが始まります。肛門と直腸との間に肛門腺があり、ここに細菌感染を起こして膿瘍を形成していきます。これが肛門周囲膿瘍です。肛門周囲膿瘍になると、切開して膿を出す必要があります。自然に破けて膿が出ることもあります。
膿が出ると痛みはスッと楽になりますが、膿が出たところと原因となった部分との間に瘻管が出来ます。肛門周囲膿瘍で膿を出した後、約70%の人はその後何の症状も出ません。でも残り約30%の人は瘻管を通って膿が出たり治まったりします。このように膿が出るなどの何らかの症状が出ると、それが痔瘻です。痔瘻をスッキリ治すには痔瘻根治術必要になります。
痔瘻根治術を行った後、スッキリ治らない原因をお話する前に、痔瘻根治術の難しさをお話します。
痔瘻に対して痔瘻根治術を行うのに難しい点があります。一つは痔瘻はその人その人によって全く違うということです。
痔瘻には様々なタイプがある。
細菌感染を起こす部分は肛門腺です。肛門腺の部位はだれでも同じです。でも感染を起こして膿が広がっていく、その広がり方がその人その人によって違います。
膿が広がる部分が、皮膚の下を広がっていくもの、括約筋の浅い部分を広がっていくもの、括約筋の深い部分を広がっていくもの、またさらに深い坐骨直腸窩に広がっていくものなど、さまざまな広がりをしていきます。そういった肛門周囲膿瘍を切開して排膿した後、様々なタイプの痔瘻になっていきます。
また、化膿した原因(原発口)と膿を出した部分(二次口)との間にできる瘻管が真直ぐな痔瘻もあれば、肛門の後方から左右に瘻管が肛門を取り巻く様に伸びていくタイプもあります。また、原発口から浅い部分を真直ぐに二次口に伸びる瘻管もあれば、原発口から深い部分に進んでから二次口に瘻管が伸びてくる痔瘻もあります。
また肛門から二次口までの距離もその人その人によって違います。肛門からすぐのところに二次口がある痔瘻だったり、二次口が肛門よりかなり離れた部分にある痔瘻もあります。したがって、手術するときも、どういったタイプの痔瘻なのか、瘻管がどのように伸びているのかなどをしっかり診断したり、手術の際に瘻管の走行を確認しながら手術をすすめていかなければなりません。
というのも原発口と原発巣を取り残したり、処置が不十分な場合、傷が治っていきません。このようにその人その人によって痔瘻は違うということが痔瘻根治術を行う時の難しさの一つの要因になります。
相反する「根治性」と「機能温存」
もう一つ難しい点は、痔瘻根治術をする際にどうしても括約筋を傷つけてしまいます。このことは避けることはできません。再発しないように、しっかり手術をしようとするとどうしても括約筋の損傷が大きくなります。また肛門の機能を守って、温存しようと思うとどうしても十分に原発巣や原発口の処理が出来なくなる可能性があります。
痔瘻根治術をする際にこの「根治性」と「機能温存」という相反することに向き合わなければならないということです。
こういった痔瘻根治術を行う時の難しさを感じながら、常に手術をすすめています。
少し前置きが長くなってしまいました。こういった痔瘻根治術の難しさを前提に、痔瘻根治術を施行した後、スッキリ治らない原因を次回お話します。