前回は、三つの術後の疼痛の要因としての一つ目の手術を施行した後の傷の痛みに関してお話しました。今回は二つ目の排便による痛みについてお話したいと思います。
排便の状態が悪いことは、術後だけでなく、肛門の病気の根本的な問題になります。排便時の怒責(力み)が強いことが特に内痔核の原因になり、内痔核の原因はこのことだけだと言ってもいいと思っています。それだけ、排便の状態は肛門の病気に関係してきます。
また、術後も具合よく便が出ることで痛みも楽にそして具合よく治っていくのだと思います。ですから肛門の手術をした後の排便の調整が大切になってきます。
さて、少し想像してみて下さい。もし自分が肛門の手術をしたとしましょう。やはり一番心配なのが排便だと思います。例えば、「排便時に痛みがあるんだろうなあ?」とか、「排便した時に出血したらどうしよう。」などと考えると、排便するのが怖くなるのが当然だと思います。その恐怖を乗り越えて便を出さなければなりません。このことは肛門の手術をした患者さんにとって一番の大きな壁だと思います。
いつも具合よく便が出ている人でも、やっぱり術後の状況に置かれた場合は同じだと思います。便が行きたくなってもどうしても出すのが怖い。我慢してしまう。こんなことから便秘になって、便が硬くなってしまいます。またこの硬くなった便を出すときにもさらに苦労があります。できることなら、術後もスッと便が出て欲しい。誰もがそう思うはずです。
ですから、排便の調整は術前から行っていかなければならないと思います。
渡邉医院では、術後当日から便が行きたくなったら思いっきり出してもいいですと患者さんにお話しています。術前から便秘の患者さんには緩下剤を内服してもらいます。また、もともと便秘に患者さんは手術で治すときが便秘を治すいいきっかけになります。
通常は便秘ではなく、具合よく出ている患者さんには術後3日間の間に1回はスッキリ便が出て欲しいとお話しています。それは、食べたものが消化され吸収され、便になるまで早くて12時間、ゆっくりで3日間です。ですから今日食べたものが3日後に便として出ることがあります。このことから3日間の間に1回はスッキリ便が出るようにしてもらっています。
術後1日目はどうしても麻酔の痛みや手術での痛みがあったこと、昼ご飯が抜きになること、また枕が違うことなど日常の環境とは全く違った環境に置かれます。やはり、この環境の変化も便秘になる原因になります。
1日目に排便がなく、2日目も出なかったり、出にくいときは緩下剤を内服してもらっています。そして3日目までに1回スッキリ便を出してもらっています。
緩下剤を内服して具合よく便が出るようでしたら、しばらく排便時の痛みがなくなるまで、または緩下剤で便が緩くなるまでは続けてもらっています。でも、術後痛みがあっても1回排便があると、「痛いけどこんなものか。」と思うだけでも便の調子が良くなってきます。また排便時の痛みがあっても一度便が出ると安心感が出るようです。「排便時の痛みはこんなものか。」、排便時に出血があっても、「この程度の出血は大丈夫なんだ。」という経験が排便の調子を良くしてくれます。
また、排便の状態は、内痔核があるときと、切除して脱出してくる内痔核がなくなった場合では排便の状態は大きく変わります。
脱出してくる内痔核がある場合は排便時に内痔核が脱出しながら肛門が「脱肛」して、便が出てきます。手術をして内痔核を切除すると内痔核が脱出することなく便が出てきます。このことでスッキリ便が出るという患者さんもいますが、反対に出にくくなるという患者さんもいます。
出にくくなったという患者さんの場合は、おそらく脱出する内痔核はなくなりますが、その代わり肛門管内に傷が出来ます。本来気持ちよく便が出るときは、肛門管内の肛門上皮が怒責することで、肛門の外に出る、すなわち「脱肛」という状態で気持ちよく便が出てきます。しかし、肛門上皮に傷ができるとこの肛門上皮が外に出る「脱肛」と言う状態が正常通りに動かなくなることが原因だと思います。
どちらかと言うと、ただ単に肛門が広がって出る。具合よく「脱肛」することなく押し出すような、絞り出すような感じで便が出るのではないかと思います。肛門上皮の傷が治り、柔らかく肛門が広がり、具合よく「脱肛」するようになることで、気持ちよくスッキリ便が出るようになるのだと思います。
そうすると、便が硬くなってしまうと、術後は正常な肛門ではないので、手術をした奥の直腸に便が詰まってしまうことがあります。直腸に便が詰まってしまうことでも痛みが出てしまいます。スッキリ便を出すことで痛みが取り除かれます。
時々便が直腸に詰まった患者さんがお尻が痛くて痛くてたまらない。座ってもいられないと受診される患者さんがいます。こういった場合は、直腸内に詰まった便をスッキリ出してあげることで痛みがなくなります。このように術後の痛みの中には、直腸に便が残ったままになる、場合によっては詰まってしまうことも術後肛門の痛みに繋がっていきます。
やはり、術後の排便の状態を良くすることは、術後の痛みの軽減に大事な要因になります。
術前から便秘の人は排便の調整を、そして通常は具合よく便が出ている人も、術後はどうしても便秘になる可能性があるので、排便の調整のために便が出にくいときは迷うことなく緩下剤をしっかり内服して便の調整をしていくことが大切です。