前回前々回と男性と女性との間の違いに関してお話してきました。今回は痔瘻根治術に関して男性と女性との違いについてお話したいと思います。
痔瘻根治術の総件数と男女差
これまで渡邉医院で行った痔瘻根治術の総件数は1780件。そのうち男性は1515件に対して女性は265件と圧倒的に男性に多い傾向にあります。男性は女性の約6倍です。この傾向は去年2019年の1年間でも同様の傾向にありました。
痔瘻の原因
痔瘻の原因は肛門腺の感染起こし、膿瘍を形成します。膿瘍は組織の弱いところから弱いところへとどんどん広がっていきます。自然に破れて膿が出て楽になることもありますが、たいていの場合は、切開して排膿をします。そして感染を起こした肛門腺の部分と切開して膿を出したところとの間に硬い管、瘻管を形成します。
切開排膿した後何の症状も無い方が70%ありますが、30%の方は、その瘻管を通って膿が出たり治まったりするなど嫌な症状が残ります。こういった症状が出ると痔瘻という病名が付きます。
なんの症状もない70%の方は特に痔瘻根治術をする必要がありませんが、排膿などの症状が続く痔瘻になった場合は、スッキリ治すには痔瘻根治術が必要になります。
肛門の括約筋の緊張の強さが痔瘻の発生に影響
痔瘻になる場合は、下痢などで肛門腺に細菌感染を起こすところから始まります。そしてどちらかと言うと、肛門の締まりが強い、すなはち括約筋の緊張が強い人に起きやすい傾向があります。このことを考えると男性と女性との括約筋の緊張の程度をみると、男性の方が括約筋の緊張が強い傾向にあります。肛門の括約筋の緊張を示す最大肛門静止圧の値をみても男性の方が女性より高い傾向にあります。こういったことからも痔瘻は女性に比べて男性に多く認めます。
痔瘻根治術の年齢別手術件数をみると、男性では20歳代から増加して、30歳代をピークにその後減少していきます。このことも若年者と高齢者を比べると、若年者の方が肛門の括約筋の緊張が強い傾向があり、そのことが若い層に痔瘻が多い理由だと思います。また高齢になってから痔瘻根治術をした方に話を聞くと、「若いころに肛門周囲膿瘍になって、特に症状がなかったので、今まで放置していたが、最近膿が出たり、少し痛みも出るなどの症状が出るようになったため受診した。」と言う方が多いです。ただ、基礎疾患に糖尿病や肝機能障害など、感染を起こしやすい要因をもった高齢者では、高齢での肛門周囲膿瘍から痔瘻へといくこともあります。ですから、感染を起こしやすい糖尿病や肝機能障害などはしっかり治療をしておく必要があります。
肛門腺の感染以外にも痔瘻の原因はある
また、痔瘻は肛門腺の感染だけでおきるわけではありません。裂肛が原因で、裂肛に細菌感染を起こし、そこから肛門周囲膿瘍になり、痔瘻へと進展していったり、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患が基礎疾患としてあり、その肛門病変として痔瘻になることがあります。この場合は女性でも裂肛から痔瘻になったり、炎症性腸疾患が原因で痔瘻になることもあります。ですから女性が痔瘻になることも珍しくありません。以前、「痔瘻は男性の病気だと言われました。私は特殊なのでしょうか?」と質問された女性がいらっしゃいました。そんなことはありません。女性でも痔瘻になることがあります。
もう一つ痔瘻が男性に多い原因とされているものがあります。それは、肛門腺は男性により発達していると言われます。動物などが縄張りを示すためにマーキングをしますが、肛門腺もこのマーキングの役割をしているとしているものもあり、男性に発達していると言われることもあります。このことも男性に痔瘻が多い原因かなと思います。
2019年の手術統計と重なるところもありますが参考にしてください。