渡邉医院

「ALTA療法後の再治療」ー第116回近畿肛門疾患懇談会を終えてー

 119日に第116回近畿肛門疾患懇談会が大阪で開催されました。できるだけ参加するようにしています。今回もいろんな先生方の発表を聞くことが出来、またそれに対しての他の先生方の活発な発言、討論を通じて、やはり刺激を受けます。また懇談会の後の懇親会では新しく先生と出会うことが出来たり、日常の診療での相談など懇談会の会場ではできない話をざっくばらんに話が出来て、とても参考になりますし、勉強にもなります。
 また、以前の相談する立場から、相談される立場になっている。そんな自分に対してもっと勉強しなければと奮起を起こさせてもくれます。そしてそれ以上に楽しい先生ばかりなので、本当に楽しいひと時を過ごすことが出来ます。

「ALTA療法後の再治療」

 さて今回のテーマは「ALTA療法後の再治療」でした。

 ALTA療法とはジオン注(硫酸アルミニュウム水和物・タンニン酸注射液)という痔核硬化剤を使って四段階注射法と言う方法で痔核硬化療法で脱出してくる内痔核を治療する方法です。手術と違って傷が出来ないので、痛みなく治すことが出来ます。今回はこのALTA療法を行った後に再発した際の治療についての検討でした。

 今回の懇談会に参加して私が感じたことについて、今日はお話したいと思います。

ALTA療法の再発とは?

 まず私が感じたことは、「ALTA療法の再発と判断する時期はいつなのか?」と言うことです。

 発表の中で、出血や脱出など患者さんが何らかの症状を訴え受診された時を再発としたする発表がありました。発表の内容には1か月以内再発症例がありました。ただこれを再発と言うのかどうかです。例えばALTA療法を施行して、出血や脱出などの症状が直ぐにとれ、しかし施行後1か月以内に出血した場合、これは再発なのか?です。この問題はALTA療法後、どのようにALTAが効いてきて内痔核が退縮していくかと関連すると思います。ALTA療法を施行した後、「もう1か月。」ではなく、「まだ1か月。」ではないかと思います。
 ALTA療法を施行して直ぐに出血や脱出といった症状がなくなることが多いです。でもこれはまだ治ったわけではありません。症状がとれただけです。ALTA療法施行後、直ぐに症状がとれても1か月ほどたっても出血することはあります。でもこの時点ではまだALTAの効果が出てくる経過の途中ではないかと思います。渡邉医院でもALTA療法施行後1週間後とそこから1か月後に受診していただき、1か月後に出血や脱出などの症状がなければ一応診察は終了としています。でもこの時点で、ALTA療法を施行した部分が触診ではっきりわかることがほとんどです。ですからこの部分が周りと同じように柔らかく乗るまでまだまだ治っていくということです。
 1か月たって受診された患者さんでまだ少し出血するという症状がある方はいます。でもその後経過を診ていくうちに出血がしなくなっていきます。ですから出血と言う症状に関しては1か月で再発と判断するのは早いのではないかと思います。
 排便時の脱出に関しては、ALTA療法を施行して、1~2週間後に受診して診察する際にまだ脱出してくるといった患者さんがいます。でも次の1か月後の受診の時は脱出してこなくなっています。でも1か月たってもまだ少し脱出するという患者さんもいます。その場合はもう1か月たって受診してもらっています。渡邉医院ではALTA療法を施行して、2か月経っても脱出する場合は、再発ではなく無効例として次の治療に移っています。

このようなことからも、ALTA療法後の再発や無効例と判断する時期を何時にするのかは大切な課題だと思います。

再発を防ぐには。

再発には二つのパターンがあると思います。一つは1年以内の再発と、5~6年以上たってからの再発です。
 1年以内の再発に関しては、ALTA療法の適応が正しかったのか?ALTA療法の効きが悪い無効例だったのかなど、ALTA療法の適応をもう一度しっかり検証する必要があります。
 また5~6年以上たっての再発ではやはりALTA療法で治癒した後の排便習慣の改善など、内痔核が出来る原因をしっかり治していく必要があると思います。なにも無かったところに排便習慣などが原因で内痔核ができる。ALTA療法で一端治っても、やはり排便習慣のかいぜんがなければ、再度内痔核が発生してきてしまいます。
 やはり内痔核自体を治すことと、その原因となる排便習慣の改善のどちらもしっかり行っていく必要があります。

ALTA療法後の治療はどうするか。

ではALTA療法を施行した後再発した場合の治療方法はどうするかですが、今回の懇談会での発表を踏まえて私の考えをお話します。

 ALTA療法無効例に対してはやはり痔核根治術が必要です。また、ALTA療法後1年以内の早期に再発した場合も痔核根治術が必要なのかと思います。また再発症例に再度ALTA療法を行った場合、渡邉医院でもALTA療法の再治療が増えるにしたがって再発までの期間が短くなってきます。(ALTA単独療法を施行後10年経過した263例の検討を参考にして下さい)したがって、5~6年以上たっての再発に関してはALTA療法の適応と判断した場合は再度ALTA療法を、しかし次の再発までが1年以内であれば、その時は痔核根治術を考える必要があると思います。

ALTA療法後の痔核根治術は剥離しにくいか?

ALTA療法施行後の手術に関して、剥離しにくく、手術がしにくいのではないかと言う議論もありました。渡邉医院でもALTA療法後に痔核根治術を行うことがあります。でも、今のところ、ALTA療法を施行した後なので、手術がし難かった、剥離しずらかったという経験はなく、通常通りの痔核根治術を行うことができました。

ALTA療法無効例は?

懇談会の中ではALTA療法の無効例の原因は何かですが、一つはALTAと言う痔核硬化剤の患者さんの感受性と言うことが一つの原因になると思います。やはり手術をして切除するのではなく、薬剤による効果で内痔核を退縮させていく治療です。やはりその薬剤と患者さんとの間の感受性も無効となる原因にはなると思います。

 もう一つは、内痔核の性状がALTA療法が無効な内痔核であることです。懇談会の中での討論で、「これはALTA療法で十分に治ると思った症例でALTA療法を施行してもまったく効かなかった無効例を経験することがある。」といった意見がありました。やがり内痔核の性状が見た目だけでなく、線維化が進んでいたりする場合はALTA療法が無効になる可能性があるという議論になりました。
 ではALTA療法を行う前にどうしたら無効例と判断することができるか?です。これはなかなか難しい問題、課題だと思います。でもなにかこのことを判断するものはないかなと考えてみました。やはり内痔核が排便時に脱出して押し込む第Ⅲ度の内痔核の期間が長いと、その間の炎症もあり、線維化が起きALTA療法は効かない内痔核になるのではないかなと考えます。この仮説を証明するには、患者さんの問診の際に、「排便時に内痔核が脱出して押し込む第Ⅲ度の内痔核になってから何年ぐらい経つか。」ということを聞きその期間とALTA療法の再発期間、無効例を検討する必要があると思います。また脱出してくる内痔核の状態をさらに詳しく検討する必要もあると思います。

少し長くなりましたが、以上が今回の近畿肛門疾患懇談会の報告です。