渡邉医院

下着が汚れる。肛門が緩んでしまったの?

 最近、「肛門が緩んでしまった。」と言う訴えで受診される方が多いです。
「どうして肛門が緩んでしまったと思うのですか?」と聞くと、「いつの間にか便が出ていて、下着が汚れてしまう。」とか、「排便後洗浄して、ちゃんと拭いたと思っていても、下着が汚れてしまう。」といった訴えです。「いつの間にか出てしまうので、家から出ることが出来ない。」「出かけたときになったら心配なので出かけることが出来ない。」とおっしゃる患者さんもいます。

同じ症状で悩んでいる方は多いです。

 いつの間にか便が出てしまっていて、下着を汚してしまったり、我慢しきれずに漏れてしまったり、とても嫌な症状なのに誰にも相談できない。家族の人にも相談できず一人で悩でいる患者さんがいます。外出することもできずに身体的だけでなく、精神的にも大きな負担になります。最近、私の診療所にも悩んでこられる方が増えてきています。なかなか診察にも来にくい症状であることを考えると、今受診されている患者さんは氷山の一角で、もっと多くの方が悩まれているのだと思います。

原因は肛門が緩んでしまったことではありません。

 こういった患者さんは、たいていの人は、「肛門の括約筋が緩んでしまった。」とか、「年だから肛門が緩んでしまった。」と心配され、もうどうしようもないのではないかと悩まれています。でも本当の原因は、括約筋が緩んでしまったり、年のせいで肛門が緩んでしまったわけではありません。
 と言うのも、肛門にある内肛門括約筋はそもそも便が出ないように締まってくれる筋肉ではありません。なにも無い空っぽの直腸に便が来たら、便がしたいという便意を感じます。そうすると内肛門括約筋が締まったままになっていては便は出ません。頭が命令して、自分の意志とは関係なく内肛門括約筋を緩めてくれます。内肛門括約筋が緩むことで、腹圧をかけると直腸にある便を出すことが出来ます。そうして直腸の便がすべて出てしまうと、また内肛門括約筋は締まってくれます。
 このように内肛門括約筋は便が出るように緩んでくれる筋肉です。ではなぜ知らないうちに便がでてきてしまうのでしょうか?

スッキリ便を出すことで解決できます。

 便失禁の原因には、直腸の中に便が残ったままになっていてスッキリ出ず、腹圧がかかったときに知らないうちに便が漏れてきたり、硬い便が直腸に残ったままになってしまい、その硬い便の隙間をどろどろの便が通り漏れ出てくる場合などがあります。
 また、最近洗浄便座で洗浄する方が多いと思いますが、あまり一生懸命に強く洗ってしまうと、洗浄時の水が直腸内に入ってしまい、その入った水が後から出てきて汚れてしまうことがあります。きれいにしようという思いが反対に汚れてしまう原因になってしまいます。

緩下剤等でスッキリ便を出すことが大事。

 このようにスッキリ便が出ないで、直腸の中に便が残ってしまっていて、それがあとから出てきて下着が汚れる。こういった場合は、緩下剤などを使ってスッキリ便が出るようにして、直腸内に便が残らないようにすることで症状が改善されます。下剤を内服していても正しく内服できていない場合もあります。また柔らかい便がちょっとづつちょっとづつ出てしまうという時は、便の量を増やして1回の量を増やしてくれる薬もあります。このように内服薬で治療することができます。
 また、大腸の動きが過敏になりすぎ下痢状の便が我慢できずに出てしまう場合があります。この場合は、大腸の動きを整えたり、便の性状を下痢ではなく、ある程度の硬さのある、そして形のある便にする薬で改善することができます。

肛門を締める運動も有効

 肛門の筋肉を鍛える運動もあります。肛門をキュッと絞める。しばらく締めた後(5秒程度)に緩めるこれを1日に10回程度行うと2週間ぐらいたつと、我慢するときに使う外側にある括約筋、外肛門括約筋が鍛えられ、我慢することが出来るようになってきます。

一人で悩まず相談してください。

 まずは直腸に便が残らないように内服薬などでスッキリ出るようにすることが大事ですが、いろんな治療法を組み合わせることで症状を改善することができます。一度思い切って診察を受けることをお勧めします。このような症状で悩んでいる患者さんは多いです。悩みを話すことでも気持ちが楽になると思います。