渡邉医院

痔瘻の再発を考える。

 外はまだ暑いですが、なんとなく空気が変わってきたような印象をうけました。暑いけど前みたいに体にまとわりつくような暑さではなくなりました。季節は確実に進んでいます。少し秋を感じました。

痔瘻の再発について

 前回、内痔核の再発についてお話しました。今回は痔瘻の再発についてお話したいと思います。
 さて、今日来られた患者さんで、「40年前に痔瘻の手術をしたけど、今度は反対側が痔瘻になったかもしれない。」と言って受診された方いました。
 診察してみると、以前に痔瘻の手術をされた傷跡がありました。そことは違う場所に炎症を起こしている部分がありました。一見痔瘻の様に見えましたが、違いました。毛嚢炎と言って毛嚢に細菌感染を起こしたものでした。症状としては炎症を起こして痛みがあるため、痔瘻や肛門周囲膿瘍に似ていますが全く違います。

肛門周囲膿瘍・痔瘻

 肛門周囲膿瘍は、肛門と直腸との間にある肛門腺が細菌感染を起こして炎症を起こして膿瘍が広がっていく病気です。切開して排膿するのですが、感染を起こしたところと切開部位が違うため、原因となった肛門腺と切開した部分との間に硬い瘻管が出来ます。そして、原因となった部分で炎症が起きると、この瘻管の中を通って膿が出てきます。言ってみれば自分の体が自分を守るために作った瘻管です。ただ、膿が出たり治まったりするのが嫌な症状です。この症状が出たときに痔瘻となります。このように肛門周囲膿瘍を治療する場合、どうしても原因となった部分と切開部分が異なるため、瘻管が出来、膿が出るなどの症状が続く場合は、この瘻管を摘出する痔瘻根治術をしなければなりません。

毛嚢炎・粉瘤の炎症

 これに対して毛嚢炎や場合によっては粉瘤が炎症を起こして化膿する場合があります。この場合は抗生剤と消炎鎮痛剤の投与で治ったり、場合によっては切開して排膿しなければならないこともあります。でも肛門周囲膿瘍と違って炎症を起こした部分と切開する部分が同じですので、瘻管はできずに治っていきます。

 このように似たような症状ですが、まったく違います。でも患者さんはそれを区別することが難しいと思います。また炎症を起こしている部分を自分で見て確認することも難しいと思います。以前痔瘻になった経験がある人は、「また痔瘻か!」ととても心配されると思います。また今回が初めての症状でも、ネットなどで調べて、「私は痔瘻になってしまった!」と思って心配されてくる患者さんもいらっしゃいます。そんな時はまずは肛門科を受診して診察してもらうといいと思います。

 患者さんにとって肛門周囲膿瘍、痔瘻はとても嫌な病気です。まずは肛門周囲膿瘍と言ってとて肛門の周囲に膿が広がって腫れあがりとても痛い症状が出ます。座っても横になっても痛く、身の置き場がありません。また熱が出ることもあります。そして、この症状を摂るには麻酔をして切開して膿を出さなければなりません。
 さらにその後痛みが治まったとしても痔瘻になって、膿が出たり治まったするという嫌な症状が続いてしまいます。肛門周囲膿瘍になってすべての人が痔瘻になるわけではありません。70%の人はその後何の症状も出ません。でも痔瘻になったら、これをスッキリ治すにはもう一度痔瘻根治術をしなければなりません。肛門周囲膿瘍に対しての切開排膿術、そして痔瘻に対しての痔瘻根治術、この2回の手術をしなければなりません。やっぱり「また痔瘻になりたくない!」という気持ちはとても良く解ります。

痔瘻は何回もなるの?

 今日の患者さんも、「痔瘻って何回もなる病気ですか?」と質問されました。その答えは、「痔瘻は何回も何回もなる病気ではありません。1か所痔瘻になって、そしてしっかり治ったのに、また別のところに痔瘻が出来るということは多くありません。クローン病などの基礎疾患がある場合は繰り返すことがありますが、そうでない場合はまずありません。また同じ部分に繰り返して痔瘻が出来ることもありません。炎症を起こした肛門腺、原因をしっかり取り除いて、しっかり治ってしまえば、原因がなくなったわけですから、そこにまたできることはありません。」です。
 ただ同じ部分が同じように炎症を起こして繰り返すこともあります。このことを「痔瘻が再発した。」と言いますが、私はこれは再発ではないと考えています。
 手術をして、いったん症状が取れたので、私と患者さんが治ったと思たが、本当はまだちゃんとしっかり治っていなくて、治っていないのでまた症状が出てしまったということだと考えています。この原因としては、炎症を起こした原因、原発口と原発巣がちゃんと摘出できていなかったり、しっかり取り除けていても治っていく過程で、どこか一部直りが悪く傷が治っていく過程で、瘻管を形成してしまった時などです。
 私が手術をした患者さんの中にも、「いったん治ったのに、また腫れてきた。」と言って受診される患者さんもいらっしゃいます。診察してみると、根本の原因の部分は治っているが、その途中に瘻管を形成してしまった場合や、やはり十分に原因が取り除けていなかった患者さんもいらっしゃいます。そんなときは、また腫れてしまった原因や治りきらない理由をしっかりお話して、もう一度手術をさせてもらっています。

痔瘻は一回しっかり手術をして、スッキリ治ってしまえばまた痔瘻になることはありません。何かスッキリ治らず、また腫れてくるなどの症状がある場合はその原因があります。何か症状がある場合は、迷わず医師に「スッキリ治っていない。」と伝えて下さい。