渡邉医院

「深部痔瘻の手術」に関して。ー近畿肛門疾患懇談会を終えてー

 今日は晴れているのかなあと思ったらいきなり雨が降ってきたり、不安定な天気でしたね。もうそろそろ梅雨入りでしょうか?朝は涼しくて過ごしやすいですが、日中は蒸し暑い日が続いています。
 今回は先週の土曜日に開催された近畿肛門疾患懇談会を終えての報告をしたいと思います。

 6月15日に開催された第115回近畿肛門疾患懇談会の主題は「深部痔瘻の手術」でした。演題は全部で5題でした。それぞれの演題名をまずは紹介します。

1. 深部痔瘻(隅越分類Ⅲ、Ⅳ型)に対する治療
2. 深部痔瘻の手術~筋縫合術・筋充填術は流行らないのでしょうか?
3. 当院における坐骨直腸窩痔瘻の手術
4. 骨盤直腸窩痔瘻の病態とそれに応じた3つのテクニック
5. 深部痔瘻の手術に対しする考え方
5つの演題でした。

 痔瘻に対する手術に関して意見交換をする際に、一番の議論の論点になるのが、肛門の機能の温存と手術の根治性です。痔瘻は二次口からの排膿が続いたり、腫れたり治まったりすることがとても不愉快な病気です。また痔瘻になる前の肛門周囲膿瘍はとても痛い病気です。できれば患者さんにとっては1回の手術でスッキリ治したい病気です。ですから手術は根治性を要求されます。ただ、痔瘻の手術の場合、瘻管が筋肉の中を貫いていますので、括約筋などの肛門の筋肉の損傷を伴います。根治性を求めるばかりに括約筋などの筋肉の損傷が大きくなると、術後の肛門の機能に障害が出てきます。したがって肛門の機能の温存に対しても検討しなければなりません。
 この肛門の機能の温存と根治性の相反する事柄に対してどう対応して手術をしていくかが私たち医師には課せられた課題となります。とても難しい課題です。
 特に今回の主題は深部の痔瘻です。機能の温存と根治性をどう考えるかが強く求められるところです。

さて、深部痔瘻についてお話しする前に、肛門の解剖、特に筋肉の解剖について少しお話しておかなければならないと思います。

 図に示すように皮下外肛門括約筋、その奥に浅外肛門括約筋、さらにその奥に深外肛門括約筋それに続いて肛門挙筋が続きます。また、外肛門括約筋の内側に内肛門括約筋があります。図に示すように、痔瘻はその瘻管がどの筋肉をどう貫いているかで分類されていきます。

 深部痔瘻はさらに3つに分類されます。1.高位筋間痔瘻2.坐骨直腸窩痔瘻3.骨盤直腸窩痔瘻の3つです。

1. 高位筋間痔瘻

 高位筋間痔瘻は、内肛門括約筋と外肛門括約筋との間を上の方へと瘻管が伸びて、二次口が無いため排膿がないタイプの痔瘻です。痔瘻の約1割弱に認められるとのことです。

2. 坐骨直腸窩痔瘻

坐骨直腸窩痔瘻は、外肛門括約筋を超えて肛門挙筋の下の方まで瘻管が伸び、肛門の後方を複雑に瘻管が走行するタイプの痔瘻です。痔瘻の約3割を占めると言われています。

3. 骨盤直腸窩痔瘻

骨盤直腸窩痔瘻は、肛門挙筋の上まで瘻管が伸びていくタイプの痔瘻です。極まれにみられるとされています。

これらの深部痔瘻で痔瘻全体の4割程度を占めることになります。それ以外の約6割は低位筋間痔瘻です。このように深部痔瘻は決して少ない割合ではありません。

痔瘻の手術の基本は原発口、原発巣、瘻管の処置をしっかり行うことです。機能を温存するには括約筋の損傷をできるだけ最小限にとどめることです。したがって、瘻管を二次口から原発巣そして原発口まで瘻管をくりぬくことで損傷は少なくなります。ただ、くりぬいた後の原発口の部分をどう処置するか。原発口を切除した部分を糸で縫合するか、筋肉や直腸粘膜でその原発口を切除した部分を覆いかぶせるように縫合するか。など、様々な方法が考えられています。ただ、この縫合した部分の縫合不全を起こすと再開通して、痔瘻になってしまいいます。どう原発口を処置した部分を処理するか。ここが重要な課題となります。深部痔瘻には様々な方法が試みられています。二次口から原発巣までしっかり処理をして、括約筋間の瘻管は残しておく、原発巣を掻把するだけで原発口を閉鎖する、ある程度瘻管をくりぬいた後、輪ゴムによるseton法を行う、また、輪ゴムによるseton法だけで時間をかけて治していくなど、まだまだこれが一番いいという標準的な術式はまだ確立されていないと思います。

いかに機能を損傷することなく、痔瘻を根治させるか。この難しい課題に、しっかり取り組んでいかなければなりません。またその手術が限られたごく一部の人にしかできないものではなく、だれにでもできる標準的な手術術式にならなければなりません。