渡邉医院

痔核(いぼ痔)ってどんな病気?痔核には内痔核と外痔核があります。

肛門の病気には、いろんな病気があります。そのなかで、「肛門3大疾患」があります。それは、内痔核と外痔核を含めた痔核と裂肛、そして痔瘻の3つの病気です。世間一般では痔核のことを「いぼ痔」、裂肛のことを「切れ痔」、痔瘻のことを「穴痔」といっているようです。

渡邉医院での手術の件数でも、一番多いのが内痔核で50%と半数を占めています。次に裂肛の14%、そして痔瘻と外痔核はそれぞれ13%で、3大疾患で90%になります。

今回は、3大疾患で最も多い痔核に関してお話しします。

痔核には、内痔核と外痔核の二つがあります。

まずは一番多い内痔核についてお話します。

肛門の出口から約2~3㎝ほど奥まで皮膚の部分があり、肛門上皮といいます。ここまでを肛門といい、その奥が直腸になります。肛門と直腸との境目を歯のようにギザギザしているので歯状線といいます。この歯状線よりちょっと奥の直腸の部分に静脈が網の目のようになった部分があります。この部分を内痔静脈叢といいます。この部分の血液の流れが悪くなり静脈の瘤となった静脈瘤のことを内痔核といいます。

痔は痛いと思っている人が多いですが、内痔核は痛みのない病気です。内痔核に血栓がつまったり、内痔核が排便の時に出てくるようになり、肛門上皮に傷がついたりすると痛みがでてきます。

内痔核の原因は人間が直立二足歩行をするようになったことにあります。寝ている時以外は常に肛門は心臓より下にあり、重力もありうっ血して内痔核ができやすくなります。ですから四足の動物はできません。ゴリラやチンパンジーも人間に近い動物ですが内痔核はできません。内痔核は人間が立って歩くようになったための宿命でもあります。でも直立二足歩行するようになって、脳が発達したことで、内痔核を治すことが出来るようにもなりました。こういった誰でもできやすいところにさらに排便の状態が悪いとできやすくなります。便秘や下痢だけでなく、排便の時に強く力んだり、力んでいる時間が長いことも原因になります。

内痔核は病気の程度で治療法が決まります。

内痔核の病気の程度は第1度から第4度までの四段階に分かれます。図にあるように、一番程度の軽い第1度の内痔核は、排便時に痛みなく出血をしてびっくりしたり、なんとなく肛門に何か挟まったような違和感があります。また内痔核があることで、便をした後もまだ便が残ったような感覚が残ることがあります。第1度の内痔核の治療は、軟膏を塗ったり坐薬入れたり外用薬を使って治療します。外用薬では症状が良くならなかったり、出血が多い場合は、パオスクレーといってアーモンドのオイルの中に5%の割合でフェノールを混ぜた痔核硬化剤を内痔核に注射する痔核硬化療法を行うとよくなります。内痔核は痛みの感じない部分にできるので、痔核硬化療法は痛みがありません。入院する必要はなく、外来通院で治療することができます。

 次の第2度は第1度の内痔核の症状に加えて排便時に内痔核が出てくるようになります。このことを脱出といいます。ただ、内痔核が脱出しても直ぐに自然に肛門のなかにもどります。第2度になると、内痔核が脱出してくるので、外用薬だけではよくなりません。パオスクレ―を使った痔核硬化療法が必要になります。でも、痔核硬化療法をすることで出血や内痔核の脱出の症状はよくなります。

 次が第3度の内痔核です。第3度の内痔核になると、排便時に内痔核が脱出したままの状態になり、指で押し込まないともとに戻らなくなります。こうなると根本的な治療が必要となります。ただ、以前ですと第3度以上の内痔核になると根治手術が必要でしたが、ジオンという痔核硬化剤ができ、この痔核硬化剤で痔核硬化療法をすることで、手術と同じように内痔核が脱出してこないように根治的に治すことが出来るようになりました。ジオンは、硫酸アルミニウムカリウムといって茄子のお漬物の紫色をきれいにするときに使う明礬のことですが、このなかにタンニン酸が混ざった水溶液です。

硬化療法を行う際に、四段階注射法という方法で行うことが大切で、年に何回か四段階注射法の講習会があり、この講習会を受けた医師だけが行うことができます。

すべての内痔核がこの方法で治るわけではありませんが、従来、手術で治していた内痔核の3分の2がこのジオンによる痔核硬化療法で治すことが出来るようになりました。手術と違って傷ができないのでとても楽に治すことができるようになりました。ただ、痔核硬化療法を施行する際や施行後に血圧が下がったり、脈が遅くなることがあったり、局所麻酔をして十分に肛門を広げられるようにしてから行うので、1泊2日の入院での治療が必要です。退院後は痛みもないので、通常通りの生活、仕事ができます。

 手術になった場合も、昔は内痔核の手術後はとても痛かったようですが、最近は手術方法も進歩してずいぶん楽になってきました。

祖父のころの手術は手術方法そのものがやはり痛い手術でした。できれば術後の出血などのことを考えるとゆっくり入院して治すことが理想ですが、最低でも1泊2日から3泊4日の入院をして治療しています。

 次は外痔核に関してお話しします。内痔核、外痔核。同じ痔核と書き、いずれも「いぼ痔」と世間一般では言われています。でもこの二つは全く違う病気です。

外痔核の多くは血栓性外痔核で、肛門の外側、肛門上皮の部分にある静脈に血栓がつまって急に腫れて痛くなる病気です。内痔核が出てきたのだと勘違いして一生懸命押し込もうとしてしまうことがあります。内痔核と違って、外側にできたものなので中に押し込むことができません。内痔核と血栓性外痔核との見極めは、内痔核は徐々に症状が悪くなり、痛くなく便をしたときに出血したり脱出してくるのに対して、血栓性外痔核は、昨日までなんともなかったのに、急に痛く腫れてくるところです。

 治療ですが、「指を挟んで血豆ができて痛い。」と似ていて、基本的には何もしなくても徐々に腫れが引いて痛みは治まり、血栓は自然に吸収されて治っていきます。血栓性外痔核の治療は、今ある痛みをどうしてあげるか、いかに早く治してあげるかです。痛み止め(消炎鎮痛剤)の坐薬を使って痛みや腫れをとり、血豆が自然に溶けていくのを待つでも治りますし、痛みが強かったり、血豆が

大きかったりした場合は、手術で血豆をとることもします。だいたい5分程程度で手術は終わります。基本的には自然に治るものをわざわざ手術して、手術した後に痛みがあると意味がありません。手術で血栓をとることで、痛みはすぐにとれ楽になります。入院することもありません。

 まだまだ奥は深いのですが、痔核に関しての症状や治療法はお話しできたと思います。なかなか肛門科にかかりにくいかもしれませんが、いろんな治療法があり、昔とちがってずいぶん楽に治せるようになってきました。「人間、直立二足方向をするようになったのが原因で、誰もができやすい病気なんだ。」と思って、まずは悩んでいないで気軽に肛門科を受診してみてください。すっきりすると思います。次回は裂肛と痔瘻に関してお話しします。